一晩で二百万円、一か月で五億ドル 第2回:トークン経済学が転んだ話
前回は、理屈の話でした。 安くなるほど、総額は高くつく。 そういう、直感に反する仕組みの話です。
前回は、理屈の話でした。
安くなるほど、総額は高くつく。
そういう、直感に反する仕組みの話です。
今回は、現場の話をします。
理屈より、こちらのほうが効きます。
四つの焼却炉
まず、燃やした金額を並べます。
ミホヨ(中国のゲーム会社):社内のマルチエージェント実験で、一晩で約200万元(約4000万円)
ある企業:法人利用に上限を設けず、一か月でClaude請求が5億ドル(約700億円超)
Uberのエンジニア:4か月で年間のClaude Code予算を使い切る
あるツール作者(個人):30日でトークン代130万ドル
ミホヨの件は、誰かがサボったから起きたのではありません。
エージェントを何体も並べて走らせれば、止める仕組みがないかぎり、コストは黙って暴走します。
一か月で五億ドルの件は、上限を設定していなかったことが原因だと報じられています。
Uber の件は、年度がまだ三分の一しか過ぎていない時点での話です。
数字を並べると、派手です。
でも、本当に怖いのは、ここからです。
これだけ燃やして、見合うものは返ってきたのでしょうか。
燃やした量と、生み出した量は比例しない
ここに、感情論ではなく、データがあります。
開発分析の Jellyfish が、200社・1万2000人の開発者を調べました。
結論は、ひとことで言えます。
トークンを最も多く消費した開発者は、十倍のコストをかけて、二倍の成果しか出していませんでした。
細部は、もっと厳しいです。
重度ユーザーの消費:月691ドル
プルリクエスト1本あたり:約89ドル
消費の少ない開発者:1本あたり0.28ドル
同じ「1本」の単価差:320倍
十倍払って、二倍。
これが、トークンマキシングの収支です。
「燃やすほど生み出す」という等式は、最も激しく燃やした人たちのところで、まず崩れていました。
では、誰が得をしたのか
企業がこれだけ燃やして、生産性が比例して伸びていないなら、その金はどこへ行ったのか。
答えは、身も蓋もありません。
モデル会社
クラウド
GPU
推論基盤
トークンを売る側は、下流の暴走した消費から、そのまま収入を得ます。
普通の企業は、燃やした分を資産に変えられなければ、ただの負け側に回ります。
トークンマキシングという旗のもとで、いちばん儲かったのは、旗を振った人ではありません。
燃料を売っていた人でした。
反論:悪いのは仕組みではなく、使い方では?
公平のために、別の見方も置いておきます。
アマゾンの王暁野は、こう言っています。
トークンが高くつくのは、モデルに食わせている餌にゴミが多いからだ、と。
つまり、問題はトークン経済学そのものではなく、無駄な文脈を詰め込みすぎる使い方の側にある、という立場です。
これは、一理あります。
そして実は、次回の話とまっすぐつながります。
燃やした金の大半は、ユーザーの目に見えないところで消えています。
その「見えない消費」の正体を、第3回で開けます。
→ 第1回:単価は下がり続けているのに、請求額はなぜ増えるのか
→ 第3回:燃やした金は、どこへ消えたのか
出典
- Jellyfish, Is “tokenmaxxing” cost-effective? New data from Jellyfish explains(Q1・200社・1万2000人の開発者。月691ドル、1PRあたり0.28→89.32ドル、「ほぼ10倍のトークンで約2倍のスループット」)
- 「一か月で5億ドル」「Uber が4月までに年間予算消化」は Axios 報道(InfoWorld / CIO が報道)
- ミホヨ「一晩で約200万元」、ツール作者「30日で130万ドル」は各メディア報道による
- 円換算は概算です
―― AI未来編集室「AIウォッチ」
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