← 一覧へ

燃やした金は、どこへ消えたのか 第3回:幽霊トークンと、撤退する大企業たち

この記事の読み方
前回までで、二つのことが分かりました。

前回までで、二つのことが分かりました。

安くなるほど、総額は膨らむ。
そして、最も燃やした人ほど、収支が合っていない。

残った問いは、一つです。
燃やした金は、いったいどこへ消えたのか。

見えているのは、二割だけ

Azeem Azhar が、その答えを出しています。
鍵は「幽霊トークン(ghost token)」という考え方です。

エージェントを使うとき、あなたが目にする最終結果は、エージェントがやった全作業の「要約」でしかありません。
その裏では、数十回のツール呼び出し、文脈の読み直し、再試行が走っています。

数字にすると、こうです。

10ラウンド回るコーディングエージェントの消費:単発の問い合わせの約55倍
そのうち本当に推論に使われている割合:15〜20%
残り:毎ラウンドの文脈の読み直し + 1タスクあたり5〜25回のツール呼び出し

つまり、八割は、ユーザーが一度も見ない作業に消えています。

実際の能動的な推論は、たぶん総トークン消費の十五〜二十パーセントでしかない。残りは、ユーザーも、おそらく支払っている会社も、モデルに入れていなかった見えない作業だ。 ―― Azeem Azhar

あなたが請求書で払っているのは、画面に出た答えではありません。
その答えにたどり着くまでに、エージェントが裏で延々と繰り返した「ひとりごと」のほうです。

前回アマゾンの王暁野が言っていた「餌のゴミ」も、結局はこの八割をどう削るかの話につながります。

大企業は、もう降りはじめた

面白いのは、これに最初に気づいたのが、いちばん深く突っ込んでいた大企業だったことです。

アマゾン:社内のトークン消費ランキング(KiroRank)を取り下げ、コードの成果に近い指標へ
マイクロソフト:一部のClaude Code利用を絞り、GitHub Copilot CLIへ戻す方針
Duolingo / Shopify:「AIを使え」から「AIの使い方を統治する」へ

アマゾンがランキングを取り下げた理由は、単純です。
ランキングがあると、社員は順位を上げるためにトークンを刷る。
低価値な作業を大量に回して、数字だけ伸ばす。
だから、消費量ではなく、成果で測ることにした。

マイクロソフトの理由は、もっと身も蓋もありません。
トークンを燃やすコストが、もはや人件費より高い。

トークンマキシングは、静かに、しかし確実に退いています。

売るものが、トークンから結果へ

では、次に来るものは何か。
方向は、はっきりしています。

トークンを売るのをやめ、結果を売る。

トークンの消費量を成果指標にするのをやめる。
機能ごとに、トークン予算を割り当てる。
AI コーディングは「使い放題」から「計量」の時代に入りつつあります。

「これだけ使った」ではなく、「これを生み出すのに、これだけかかった」で測る世界です。

それでも、エージェントは無駄なのか

最後に、いちばん辛辣な反論も置いておきます。

ある論者は、コーディングエージェントは、ソフトウェア開発史上、最も高価な誤りの一つかもしれない、とまで書きました。

私は、そこまでは言いません。
エージェントが生み出した価値は、確かにあります。

問題は、価値があるかどうかではありません。
その価値を、消費と並べて測れていなかったことです。

個人的な見方

企業の AI 導入には、分かりやすい第一段階があります。

アカウントを配る。
次に、使用率を競わせる。
そしてたいてい、痛い思いをして初めて、第三段階に進む。
業務のどこを作り替えるか、です。

アマゾンもマイクロソフトも、五億ドルやランキングを経由して、ようやくそこへ来ました。

トークンは、これからも安くなります。
でも、安さは無駄を消しません。
水道管が太くなれば、水漏れはむしろ派手になります。

だから、次に価値を持つのは「もっと AI を使わせる」プロダクトではありません。
この一回の呼び出しが、本当に何かを生んだのか。
それを会社に教えるプロダクトのほうです。

トークン経済学が転んだあとに残るのは、燃やした量の自慢ではありません。
燃やした先にあるものを数える、地味な仕事です。


→ 第1回:単価は下がり続けているのに、請求額はなぜ増えるのか
→ 第2回:一晩で二百万円、一か月で五億ドル

出典

―― AI未来編集室「AIウォッチ」

← 一覧へ