Agentic OS を、取引で読み直す(8):多いほど良い、ではない ―― 量を足すより、質と配合を整える
前回まで、軽さ、速さ、鍛え方、任せ方の取引を見てきました。
Agentic OS を、取引で読み直す(8):多いほど良い、ではない ―― 量を足すより、質と配合を整える
足すことを疑う
前回まで、軽さ、速さ、鍛え方、任せ方の取引を見てきました。
どれも、何かを足したり、削ったりする話でした。
ここで、足すこと自体を疑います。
鍛える素材も、その場で渡す文脈も、多ければ多いほど良い、と思いがちです。
だが、そうではありません。
多いだけの山は、かえって、できあがりを濁します。
今回は、その取引です。
集めただけの山は素材ではない
モデルは、食べた素材でできています。
だから、まず大量の文章を集めます。
けれども、集めただけの生の山は、まだ素材ではありません。
同じ文章が何度も混じっています。
壊れた文字列も混じっています。
中身の薄い決まり文句も混じっています。
特定の分野や言い方だけが、妙に多いこともあります。
そのまま食べさせると、モデルは、その重複も、汚れも、偏りも、まるごと身につけます。
整える前と後では、できあがりがまるで変わります。
同じものを一回ぶんに減らす
最初にやることは、同じものを減らすことです。
同じ文章は、あちこちにコピーされて、何度も現れます。
引用、転載、一覧ページ、保存された写し。
形は少し違っても、中身はほとんど同じことがあります。
これを放っておくと、二つ困ります。
一つは、丸暗記が増えることです。
何度も同じ並びを見せられると、モデルは意味をつかむ前に、並びそのものを覚えます。
もう一つは、よくコピーされたものの声が大きくなることです。
本当は一つの文章なのに、山の中では十回ぶん、百回ぶんの重みを持ちます。
すると、よく写された言い方が、よくある言い方だと誤って扱われます。
だから、同じものは、一回ぶんに減らします。
完全に同じものだけでは足りません。
少しだけ字が違うものも見ます。
見出しだけが違うものも見ます。
前後に余計な文が付いたものも見ます。
大事なのは、同じ声を何度も数えないことです。
これで、丸暗記が減ります。
声の大きさも、少しそろいます。
明らかな汚れを濾す
次に、明らかな汚れを濾します。
壊れた文字列があります。
記号だけが続くものがあります。
中身のない案内文だけのものがあります。
同じ宣伝文句だけが長く続くものもあります。
害のある言葉も混じります。
残せば、それも学びます。
モデルは、こちらが望むものだけを都合よく選んで食べてはくれません。
だから、何を食べさせないかを決めます。
これは、残すより難しい仕事です。
捨てすぎれば、よいものまで失います。
荒い言葉でも、問題を説明するために必要な場合があります。
崩れた文章でも、実際の利用場面を知るには役に立つ場合があります。
逆に、残しすぎれば、汚れが混じります。
丁寧に見えるだけで中身のない文章もあります。
長いだけで、ほとんど同じことを繰り返す文章もあります。
線を引く場所が、素材の質を左右します。
ここは、派手な仕事ではありません。
汚れに触れ、迷いながら、残すものと捨てるものを分ける仕事です。
配合が得意を決める
最後に、配合を決めます。
どの分野を、どれだけ混ぜるか。
物語を厚くし、手順を薄くするのか。
手順を厚くし、雑談を薄くするのか。
短い文章を多くするのか。
長い文章もきちんと入れるのか。
同じ量でも、混ぜ方を変えれば、別のモデルになります。
一つの分野に偏れば、そこは強くなります。
その代わり、ほかが弱ります。
広く混ぜれば、満遍なくなります。
その代わり、尖りは鈍ります。
配合は、ただ全部入れることではありません。
何をどれだけ入れるかを、意図して決めることです。
よく使う場面に近い素材を厚くする。
足りないふるまいを補う素材を足す。
すでに多すぎる癖を弱めるために、似た素材を減らす。
こうして、得意と不得意の形が決まります。
多さは良さを薄める
ここで効くのは、量より、質と配合です。
大きくて汚い山より、小さくても、きれいで、よく混ざった素材のほうが、しばしば良いモデルになります。
なぜなら、汚れや偏りは、量を増やすほど一緒に増えるからです。
きれいな素材を、汚れた大量の素材で薄めると、平均は汚れたほうへ寄ります。
よい文章が少しあっても、そのまわりを薄い文章が埋めれば、よさは埋もれます。
まれに必要な分野があっても、同じような文章ばかりが山を占めれば、その分野は学ばれにくくなります。
多さは、良さを増やすだけではありません。
悪さも持ち込みます。
だから、足すこと自体を疑わないといけません。
二つの谺
その場で渡す文脈に、あれもこれもと詰めすぎると、肝心の一点が大量の脇に埋もれて、薄まります。
入口で広く拾うのも同じ顔を持ち、見逃さない助けにはなりますが、拾いすぎれば下流で相手にする量が重くなります。
この取引の払い方
集めただけの山は、素材ではありません。
重複を減らします。
汚れを濾します。
配合を決めます。
そこまで整えて、ようやく食べさせる素材になります。
この取引の払い方は、はっきりしています。
たくさん集める手軽さを取れば、整える手間は省けます。
その代わり、できあがりは濁ります。
きれいに整える手間を払えば、できあがりは澄みます。
その代わり、地味で、骨が折れます。
多いほど良い、ではありません。
量の手軽さと、質と配合の手間との取引でした。
ここまで、一つ一つの取引を見てきました。
次は、それらを組み合わせて、長い段取りを作るときの取引へ進みます。
各段が、たとえ十のうち九つまでうまくいっても、段をいくつもつなぐと、その小さな漏れが、掛け算で効きます。
小さな漏れが、掛け算で崩れる。
次回は、信頼の複利の話です。
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