中国のロボットは「売った後」に賢くなり始めた ―― 部品で勝つ日本は、どこで戦うのか
ロボットを売った後に賢くする、中国型の学習ループと日本の部品優位を並べて読む。
ロボットのデモ動画は、もう見飽きたかもしれません。きれいな実験室で、ロボットが一度だけ華麗に作業をやってのける ―― ああいうやつです。問題は、店や家や工場という本物の現場に出した瞬間、ロボットが急に「不器用」になることでした。
上海創智学院と智元(AgiBot)が出してきた LWD(Learning While Deploying=配備しながら学ぶ) は、この「デモは凄いのに現場で転ぶ」という具身知能(フィジカルAI)の長年の矛盾に、正面から手を入れています。チームを率いるのは、UCバークレー出身、Google X / DeepMind を経た智元の主席科学者・羅剣嵐(Luo Jianlan)。彼は、実機の強化学習で超人的な精度を出した SERL / HIL-SERL の作者でもあります。
「配備=終わり」を、「配備=訓練の始まり」に変える
これまでのロボットの賢さは、ほとんどがオフライン訓練で作られていました。大量のデータで事前学習し、模倣学習をして、限られた強化学習で微調整し、最後に「配備して検証」して終わり。
LWD は、この最後の一歩をひっくり返します。売って現場に出したロボットが、実際の仕事の中でデータを回収し、それを訓練に戻して能力を更新し続ける。 一台一台が、作業者であると同時にデータ収集ノードになる。羅剣嵐の言葉を借りれば、現実世界が「テストセット」から「主たる訓練場」に変わるわけです。
具体的な数字も出ています。16台の双腕ロボットからなる実機クラスタで、品出し・お茶入れ・ジュース絞り・片付けなど8種類の複雑なタスクを試したところ、平均成功率は95%。とくに難しい長工程タスクでは最大17%の改善、1回あたりの作業時間も約23.75秒短縮した、と。
技術的に面白いのは、彼らの「割り切り」です。配備で出たデータは選別せず全部回収する。人が手で介入したデータも、無条件に「お手本」とは扱わず、最終的にタスクが成功したかどうかで自動的に1か0のラベルを付ける。報酬はスパース報酬(成功=1、失敗=0)にして、手書きの細かい報酬関数をモデルに「ハック」される事故を避ける。地味ですが、現場で回し続けるための、現実的な設計です。
なぜこれが日本にとって他人事ではないのか
ここからが本題です。LWD が解こうとしている「ロボットがどうやって自分で賢くなり続けるか」という問いの裏で、中国の人型ロボットは台数でとんでもないスピードに入っています。
数字を並べます。TrendForce の予測では、2026年の中国の人型ロボット生産量は前年比約94%増。世界の人型ロボット出荷の約9割が中国製で、Unitree と AgiBot(智元)の二社だけで中国出荷のおよそ8割を占める。広東省では2026年3月、年産1万台超のラインが稼働し、30分に1台のペースで組み上がっている、という報道もあります。価格も、Unitree は数年で人型ロボットを8万5千ドルから2万5千ドルまで落としてきました。
では、ロボット大国だったはずの日本はどこにいるのか。ここが大事なところで、日本は「弱い」のではなく、「別の場所」で強いのです。
- 精密部品では今も世界の中枢。ハーモニック・ドライブの波動歯車装置は世界シェア約50%で、世界中のほぼすべての人型ロボットに入っている。安川電機はサーボモータで世界トップ。
- 産業用ロボットでもFANUC・安川など世界上位。世界の主要メーカー10社のうち5社が日本勢です。
- 一方で、人型の「完成品・量産」では米中に出遅れたというのが共通認識。経産省は2025年のロボット戦略で5000億円規模の補助を打ち出し、量産目標は2027年。川崎のロードマップは2030〜2050年と、いかにも慎重です。
そしてもう一つ、効く数字。中国の産業用ロボットは2025年、輸出が輸入を初めて上回り「純輸出国」に転換。在中国市場での外資シェアは75%(2015年)から48%(2026年)まで落ち、初めて地場勢に逆転されました。
個人的な見方
この対比を、私は「日本が負けている」という単純な話だとは思っていません。むしろ構図が、はっきり分かれてきた、という話です。
日本が握っているのは、ロボットの「関節」です。減速機、サーボ、精密制御、安全設計 ―― 物理的に正確に動くための、誰にも真似しにくい部分。LWD のような中国の取り組みが握りにいっているのは、ロボットの「学び方」です。売った後に現場でどう賢くなり続けるか、その飛輪(データフライホイール)をどれだけ速く回せるか。
羅剣嵐自身が、飛輪のボトルネックは結局 cost だと言い切っていました。「より多くのロボットを配備し、より多くの実データを回収できる者が、飛輪を本当に回せる」と。つまりこれは、賢さの競争であると同時に、量産と配備規模の競争でもある。台数が出るほど学習が速くなるなら、30分に1台のラインは、ただの製造能力ではなく、学習速度そのものになります。
日本にとっての分岐点は、ここだと思います。最高の関節を作り続けて「IT企業の下請け」の位置に留まるのか、それとも精密制御という強みの上に、学び続けるソフトウェアの層を自分で築くのか。経産省の5000億円が試されるのも、おそらくそこです。
「中国のロボットは安いから」で片付けたら、一番大事なところを見落とす。安さの裏で、売った後に勝手に賢くなる仕組みが、もう回り始めてる。私が気になってるのはそこです。
(なお、95%成功率や台数予測は発表・調査ベースの数字で、第三者による長期検証はこれからです。そこは差し引いて読んでください。)
―― AI未来編集室「AIウォッチ」
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