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BYDが自社製4nmチップを量産した日 ―― 日本の車載半導体は、どこにいるのか

この記事の読み方
BYD の4nm車載AIチップを、日本の車載半導体と量産構造の差から読む。

5月28日、BYDの王伝福が壇上で、自動運転チップ「璇玑(シュエンジー)A3」を発表しました。中国初の車載向け4nmチップで、L3・L4の自動運転に対応する、という触れ込みです。

スペックを並べると、こうなります。1チップあたり約700 TOPS、3チップ構成で2100 TOPS超。3コアのNPUに16コアのCPU、メモリ帯域273GB/s。機能安全はASIL-D ―― 車載で最も厳しいレベルを取得しています。

ただ、私がこのニュースで本当に手を止めたのは、これらの数字ではありません。「すでに量産に入っている」という一行と、その後ろにある構造のほうです。

数字より、その後ろにある構造

TOPSの数字を積み上げること自体は、正直そこまで難しくない。難しいのは、積んだ演算能力を実際に使い切ることと、それを車載品質で安定して作り続けることです。

BYDは、単位演算あたりの消費電力が同級品比で約2割低い、と説明していました。さらに自社のADAS(神の目)アルゴリズムと組み合わせることで、演算リソースの利用率が倍になった、とも。パラメータ競争ではなく、工学的にちゃんと動かす方を見ている、ということだと受け取りました。

でも、本当の見どころはチップ単体ではありません。BYD自身が公表している数字のほうが雄弁です ―― 同社はウェハ工場を5つ持ち、7000人を超えるチップ開発チームを抱え、関連投資は1000億元(約2兆円規模)を超える。製品定義から回路設計、ウェハ製造、パッケージング、テストまで、チップ製造の全工程を自前で持つ、世界で唯一の自動車メーカーだと主張しています。

電池・モーター・電子制御・車体、そこに自動運転チップまで。最後のピースがこのチップだった、という話です。ここまで一本のラインを自前で握っていると、コストでも、改良の速度でも、効いてくる。中国メディアはこれを「フィジカルAI(物理世界のAI)」の計算プラットフォーム争いと位置づけています。

では、日本の車載半導体はどこにいるのか

ここからが、日本にいる私たちにとって本題です。中国がここまで来たとき、日本側の現在地はどこなのか。両方を並べて、はじめて意味が見えてきます。

まずトヨタ。2026年モデルから、レクサスを皮切りに、NVIDIAの「DRIVE AGX Orin」を載せた次世代車を順次出していく予定です。つまり、自動運転の頭脳は外から買う。これは悪い選択ではありません。Orinは実績のある汎用SoCで、世界中の中・高級車が採用しています。ただ、BYDが「自社設計・自社量産」を出してきた同じ時期に、トヨタは「外部調達」である、という対比は残ります。

次にルネサス。車載半導体(とくにMCU)では今も世界トップクラスです。しかし自動運転向けのSoCという土俵では、Mobileyeやnvidiaに先行を許しているのが実情です。ルネサスの戦略はむしろ明快で、「プラットフォーマーと正面から殴り合わない。自動車メーカーの垂直統合エコシステムの中で、自分の強い領域をやる」という方向に振っています。

そして日本連合の動き。トヨタや電装部品メーカー、半導体企業など12社が2023年末に「自動車用先端SoC技術研究組合(ASRA)」を立ち上げ、チップレット技術で巻き返しを狙っています。ただ ―― ここが効きます ―― その量産車搭載の目標は 2030年以降

個人的な見方

このニュースの本当の重さは、「BYDがスペックでNVIDIAに並んだ/テスラを超えた」という見出しの中にはありません。

効いてくるのは、時間差です。BYDは「もう量産している」。日本のASRA連合は「2030年以降に載せたい」。同じ4nm級・車載SoCという土俵で、片方は出荷、片方はこれから ―― この5年弱のギャップを、私はいちばん重く見ています。

そしてもう一つが、統合の深さ。トヨタがOrinを「買う」のに対し、BYDは電池から制御、演算チップ、ADASアルゴリズム、さらには事故時の経済的補償まで、鎖の全部を自分の手の中に入れにきている。チップ単体の勝負なら、外から最良の部品を買う戦略でも十分に戦えます。でも勝負が「データ・アルゴリズム・ハードウェア・責任をどれだけ一体で握れるか」に移っていくなら、買う側は構造的に不利になりやすい。

もちろん、BYDの「世界唯一」「利用率2倍」といった主張は同社発表ベースで、第三者検証はこれからです。そこは差し引いて読むべきです。それでも ―― 「中国のEVは安い」という話の裏側で、垂直統合がここまで静かに、そして速く進んでいる。日本の自動車産業にとって、これは真面目に受け止めるべき信号だと思います。価格の話ではなく、構造と時間の話として。

―― AI未来編集室「AIウォッチ」

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